版画について

春仙美術館では、名取春仙をはじめ版画作品を多数所蔵しています。ここでは版画の特徴や技法について、木版画を中心に解説します。

更新日 2010年08月18日

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版画Q&A

Q:版画にはどのような種類がありますか。

A:版画とは版を用いて描かれる作品のことを言い、以下、版の種類によって大きく次の4つに分けられます。

版の形式 特徴 主な版
の種類
凸版 版の凸の面が図柄になる 木版 浮世絵、名取春仙の作品など
凹版 版の凹の部分が図柄になる 銅版 山本正文の作品など
平版 版の凹凸ではなく、水と油の反作用を利用し、油の部分に寄せられたインクが図柄になる 石版 明治・大正頃のポスターや小説の口絵など
孔版 版に開けた穴からインクを押し出すため穴の部分が図柄になる シルクスクリーン Tシャツのプリント など

Q:「版画」と「錦絵」の違いは何?

A:「版画」という言葉ですが、実はこの言葉は明治時代の終わりに使われるようになった言葉なのです。江戸時代の浮世絵は、現在では木版画の一つの種類と言えますが、当時は「版画」という言葉がありませんでしたから、「錦絵」というように呼ばれていたのですね。

版画作品をみて分かること 

山本正文版画作品

山本正文「ROSAⅡ」

春仙歌舞伎の隈取り枠なし 署名・・・誰が描いたかが分かります
春仙歌舞伎の隈取り枠なし 限定部数・・・この版画が何枚制作されたかが分かります

 

浮世絵Q&A

Q:浮世絵とはどんなもの?

A:「浮世絵」は江戸時代に生まれた言葉ですが、「うきよ」といえば江戸時代以前の戦国時代の頃には、「憂世」といって、今生きているこの世の中を辛く苦しい世界だという意味に使われていました。その後、関ヶ原の戦を経て江戸幕府が開かれると、戦乱の世の中に平和がおとずれます。すると人々は、今生きている世の中が心浮き立つような楽しい世界であるという思いになり、「うきよ」も「憂世」から「浮世」へと変化しました。江戸時代の書物をみると「浮世風呂」「浮世草子」「浮世傘」と「浮世」と名の付くものがたくさん出てきますが、「浮世絵」もその一つなのです。そのため浮世絵に描かれる内容は、人々をわくわくさせるような (1) 美人 (2)役者(歌舞伎役者) (3)風景という三つのジャンルが中心に描かれました。

Q:浮世絵は版画なの?

A:浮世絵は版画とは限りません。浮世絵師が筆で描いた「肉筆」の浮世絵と木版画による「版画」があります。この二つがちょうど車の両輪のように、浮世絵を発展させてきました。 

Q:錦絵とはどんなもの?

A:浮世絵版画も初めの頃は、白黒のみで、色の部分は手で彩色されていました。筆で彩色が加えられたものの多くは「紅絵」と呼ばれます。やがて版木に見当といわれる印を用いることで2・3色を重ねて摺る「紅摺絵」が生まれ、江戸時代の明和という時期(1765年頃)には更に技術が進歩し、より多くの色を摺り重ねることが可能になりました。それがまるで錦のように美しいことから「錦絵」と呼ばれるようになったのです。つまりは多色摺木版画=錦絵なのです。

Q:浮世絵版画はどのようにしてつくられるの?

A:江戸時代の浮世絵版画は、絵を描く絵師、その絵を版に彫る彫師、それを摺る摺師、更に彼らをまとめる版元によって作品が完成します。例えば喜多川歌麿の作品も、歌麿すなわち絵師が絵を描き、彫師がその絵を版木に彫り、摺師が多くの色を摺り重ね、版元が作品を世に出して行きました。

浮世絵版画をみて分かること

歌川広重錦絵

歌川広重「名所江戸百景 大はし阿たけの夕立」

春仙歌舞伎の隈取り枠なし 落款(署名、印章)・・・誰が描いたのか分かります
春仙歌舞伎の隈取り枠なし 版元印・・・版元はどこかが分かります
春仙歌舞伎の隈取り枠なし 極印、改印・・・いつ出版されたのかが分かります

 

浮世絵版画の技法

きめ出し、空摺り(からずり)

 着物の柄や背景など、絵具が付いている訳ではないのに紙の凹凸によって模様が表現されているものがあります。この摺りの技法をきめ出し・空摺りと言います。
 まず、きめ出しは画面の一部分に立体感を出すもので、肉摺とも呼ばれています。色摺が済んだ絵を版木にのせ、絵具をつけずに肘などで版に圧力をかけて紙に凹凸をつけます。
 空摺りは墨線の代わりに輪郭線を凹ませ質感を強めるもので、きめ出しと同様に版木には絵具を付けず、湿り気を与えて強く摺り、紙に凹凸を付けます。

きめ出し、空摺りの例

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きめ出し・空摺り

名取春仙「二世中村芝鶴 堀河御所の静御前」
 

雲母摺(きらずり)、木目潰し(もくめつぶし)

 人物などの背景を一色で摺ることを、地潰しと言います。その地潰しに雲母の粉末を用いたものを雲母摺と言い、地の色によって白雲母、黒雲母、紅雲母などと呼びます。名前の通りキラキラと輝いているのが特徴です。
 また淡い色で地を潰し、木目を際立たせたものを木目潰しと言います。版木の木目が綺麗に表現されます。

雲母摺の例

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雲母摺 

 名取春仙「十一世片岡仁左衛門 九段目の本蔵」



木目潰しの例

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木目潰し

名取春仙「三匹の猫」

 

大丸ざら

 名取春仙の役者絵には、背景に丸い円がいくつも連なるように摺られているのをみることができます。これは大丸ざらと呼ばれる技法で、版木には普通に絵具をつけて、バレンを回しながら摺ります。
 バレンは竹の皮で包まれた道具ですが、中には竹の皮を編み込んだ芯が入っています。この芯の縄の太さやバレンをまわす大きさ、力の入れ加減で丸い円が重なるように自由自在に表現されていきます。

大丸ざらの例

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大丸ざら

名取春仙「三世坂東秀調静御前」
春仙歌舞伎の隈取り枠なし これらの技法は写真などでは分かりにくいことをはじめ、実物に触れ自ら感じるためにも実際に美術館で鑑賞することをお勧めします。 

順序摺り

浮世絵の制作工程

1 作画の依頼 版元が絵師に作画を依頼します。
2 下絵の制作 絵師は版元の依頼に応じて下絵(したえ)を描きます。下絵は墨線により描かれ、それが版を彫るための版下(はんした)となります。いわば設計図の役割をします。
3 主版の彫り 彫師に手元にわたった下絵は版木(桜の板)に糊付けされ、主版(おもはん)とよばれる版木の中でももっとも重要な版が作られます。この時、絵師の描く図柄に加えて見当(けんとう)といわれる印がつけられます。絵師の描いた下絵は、主版が完成するのと同時になくなってしまいます。
4 校合摺り 完成した主版は摺師によって摺られます。図柄はもちろんのこと見当の部分も含めて、数十枚摺ります。これを校合摺(きょうごうずり)といいます。主版の完成とともに失われた絵師の下絵はこれによって複数よみがえることになります。
5 版の点検と
色さし
校合摺を見ながら絵師が図柄や彫りの点検をし、色の指示を出します。この色の指示をすることを色さしと呼びます。
6 色版の彫り 色さしの加えられた校合摺は、色版を彫るための下絵となり、色版が作られます。
7 摺り すべての色版が完成し、順番に摺り重ねられ完成します。その間、彫られた一枚一枚の板が丁寧に確認され、必要によっては修正が加えられながら、見本の摺りがおこなわれ、本摺へと達し、完成します。
8 完成そして
出版
完成された作品が版元から出版され、世に送り出されます。

 

春仙歌舞伎の隈取り枠なし このような江戸時代からの浮世絵版画の制作過程をふまえ、版元が絵師つまり画家の個性を十分に尊重し、制作にあたることに努めたのが、大正時代の版元・渡邊庄三郎であり、名取春仙や山村耕花らの優れた作品を出版しました。そして伝統浮世絵の版元制度により制作された、近代の版画のことを新版画と呼んでいます。そして制作される作品の枚数も、版木の摩滅による芸術性の低下を防ぐため、200枚程度に限定されました。

 

摺りの順序

 概ね浮世絵版画の摺りの順序は、まず主版(墨板)を摺った後に、色版の色を重ねます。色は図柄の面積が小さなものから大きなもの、色の薄いものから濃いものの順に重ねていくのが一般的です。これは濃い色をはじめに摺ると紙が汚れてしまう恐れがあるからです。
 そして多くの色を的確に摺り重ねるために、版木のそれぞれに彫りこまれた見当に、用紙の端を付けて摺っていきます。
 摺りの工程では、版木も和紙もその日の天候(特に湿度)や摺りの状況により、生き物のように伸縮するため、摺師は状況に応じて、見当の位置を調節していきます。

版木について

 版木には適度な硬さがあり、木目の整っている、桜の古木を用います。もっとも重要な主版(墨板)は、版木に狂いが生じないように厚みのある桜材を用い、色版は桜材の両面を用います。《羽子のかむろ》では主版と背景部分の色板に、厚めの桜材がつかわれ、そのほかの色板は両面に彫りがほどこされています。

順序摺りの例

(例)名取春仙「四世中村富十郎 羽子のかむろ」
※完成作品と墨版を摺ったもの

1.  主版(墨板)を摺る。図柄の輪郭部分の墨線が現れる。

順序摺り1 

 

 

 

2.  まぶたの部分と衣装のたもとの鶴の図柄に薄い紅色を摺る。

 順序摺り2-1順序摺り2-2

3.  かんざしや衣装の黄色い部分と羽子板の地の色を摺る。色が似ていることと、色の面が離れているために、同じ版木の中に黄色の部分と羽子板の地色の部分が彫られた版木が使われる。 

 順序摺り3-1 順序摺り3-2

4. 桜の小紋など淡い青色を摺る。

順序摺り4-1 順序摺り4-2

5. 羽子板の竹の図柄と衣装の図柄を摺る。僅かにぼかしの技法が用いられている。

 順序摺り5-1順序摺り5-2

6. 衣装の地色の紅を全体に均一な色調で摺る。

 順序摺り6-1順序摺り6-2

7. 6と同じ版木を用い、今度は色の濃淡をつけて摺る。

 順序摺り7-1順序摺り7-2

8. 衣装やかんざし、目元などに赤色を摺る。徐々に濃い色が摺り重ねられる。

 順序摺り8-1順序摺り8-2

9. 背景を紅色で摺る。このように人物などの背景の地の部分を一色で摺ることを地潰し(じつぶし)と言う。

順序摺り9-1 順序摺り9-2

10. さらに背景に水色を重ねる。伸びやかな円形の模様はバレンを回しながら摺ることによって表現される。この摺り方を大丸ざらと言い、バレンの縄の太さとまわす大きさや力の入れ具合によって自由自在な表現ができる。

順序摺り10-1 順序摺り10-2

11. 髪と帯の部分に艶墨を摺る。完成。

 順序摺り11-1順序摺り11-2

 

春仙歌舞伎の隈取り枠なし 役者絵や美人画では、凡そ20回から30回程度の摺りが行われ、風景などの作品になると80回から100回とも言われる程の摺りが重ねられることもあります。浮世絵版画の持つ柔らかな色彩や色の重なりによる奥行きは、このような制作過程の中から生み出されています。

 

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